逆境の中で生まれた奇跡の一作

2015年5月28日に初代「スプラトゥーン」が発売されてから、2025年で10周年を迎える。
今では任天堂の代表的シリーズとなった本作だが、最初から期待されて登場したわけではなかった。
むしろ、任天堂が深刻な苦境に立たされていた時期に生まれた「起死回生の一作」だった。

初代「スプラトゥーン」がどのような状況下で発表・発売され、人気作になっていったのか、開発秘話から社会現象化するまでの全経緯を本記事では詳しく解説していく。

初代「スプラトゥーン」が発表された2014年:任天堂を取り巻く厳しい状況

初代「スプラトゥーンが発表されたのは、2014年6月10日にオンライン配信された「Nintendo Digital Event」の中だ。
当時開催されていたゲーム業界最大のイベントE3に合わせた発表となった。

2014年のE3では「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(当時はゼルダの新作として紹介)のティザー映像が話題となったが、任天堂の置かれていた状況は極めて厳しかった。

WiiU販売不振という深刻な問題

2012年12月に発売されたWiiUは、任天堂にとって大きな誤算となっていた。同機の累計販売台数は最終的に1,336万台に留まり、前世代機Wiiの1億台超えという大成功とは対照的な結果となった。

サードパーティ製の新作ソフトもPlayStationやXboxに集中し、WiiU向けには「費用対効果が悪すぎる」として多くの開発者が離れていく状況だった。
任天堂自社でも「ソフト不足」という深刻な問題を抱えており、ハード普及の悪循環に陥っていた。

初代「スプラトゥーン」が発表されたのは、まさにそんな大逆風の中だったのである。

「スプラトゥーン」誕生から人気作になるまでの経緯

開発の始まり:「豆腐の戦い」から生まれたアイデア

スプラトゥーンの開発は、WiiU立ち上げ後のメンバーが集まって始まった新規プロジェクトだった。
プロデューサーの野上恒氏を中心に、「既存のゲームの枠にとらわれない新しいゲーム」の創造を目指していた。

任天堂の開発者インタビューによると、最初の試作品は「真っ白けの迷路の中に四角い立方体の白いのと黒いのがインクを発射しあって、陣地を取りあう」という単純なものだった。
開発チームは後にこれを「ごま豆腐ともめん豆腐の争い」と呼んでいる。

この「豆腐キャラクター」から始まったアイデアが、70以上のアイデアとの競争を経て、最終的に現在のスプラトゥーンの形へと進化していった。

E3 2014での発表:当初は控えめな反応

E3 2014でのスプラトゥーン発表時、反応は決して爆発的ではなかった。
発表映像がほぼ終盤で紹介されたこともあり、多くの視聴者はサードパーティ製のAAAタイトルを期待していたため、「イカのようなキャラクターがペンキを塗っていくゲーム」という新しいコンセプトを理解するのに時間がかかった。

ネット上では「面白そう」という意見もあったが、話題にする人はそれほど多くなく、注目度は限定的だった。
しかし、開発チームが自ら制作したプロモーション映像の完成度の高さは、後の成功の兆候を示していた。

発売後の爆発的人気:シューターゲームの常識を覆す

2015年5月28日に初代「スプラトゥーン」が発売されると、状況は一変した。
それまでのシューターゲームが「敵を倒す」ことを主眼に置いていたのに対し、スプラトゥーンは「陣地を塗る」という革新的なルールを採用していた。

この斬新なゲームシステムが多くのプレイヤーを魅了し、特に以下の要素が人気の要因となった:

  • インクで陣地を塗るという分かりやすいルール
  • ポップで親しみやすいデザイン
  • シオカラーズなど魅力的なキャラクター
  • ジャイロ操作による直感的な操作感

WiiUの代表作と言える作品が少ない中で、スプラトゥーンは間違いなく「奇跡の一作」となった。

「スプラトゥーン2」で人気は最高潮に

2017年7月21日、Nintendo Switchの発売から4ヶ月後に「スプラトゥーン2」が発売された。
世界的なブームとなっていたSwitchの勢いと合わさって、スプラトゥーンは爆発的な人気を獲得することになる。

Switch効果による社会現象化

「スプラトゥーン2」は発売3日間で67.1万本を販売し、Nintendo Switch向けソフトで過去最高の勢いを記録した。国内では100万本を突破し、2017年のヒット商品ランキングでもNintendo Switchと共に上位に選ばれた。

Switchのポップなデザインとスプラトゥーンの親和性は抜群で、特に10代の男性を中心に幅広い層に人気が広がった。この成功により、スプラトゥーンは名実ともに任天堂の代表作の仲間入りを果たした。

シリーズとしての確立

「スプラトゥーン3」は2022年9月9日に発売され、発売3日間で345万本という驚異的な売上を記録した。これはSwitch史上最高の初動売上となり、スプラトゴーン3の世界累計売上は1,264万本に達している。

次回作「スプラトゥーン4」への期待と課題

Nintendo Switch 2でのマウス操作対応

Nintendo Switch 2では新しいJoy-Conがマウスのような操作に対応することが発表されている。ジョイコンの側面を下に向けて滑らせることで、従来のジャイロ操作に加えてマウス操作も可能になる見込みだ。

次回作の「スプラトゥーン4」でもマウス操作が採用されるか注目が集まっている。
FPSの世界ではマウス操作の方が精密なエイムが可能とされているが、スプラトゥーンシリーズは一貫してジャイロ操作を主体としており、これこそが「スプラトゥーン」の醍醐味と言える部分でもある。

任天堂がどのようにバランスを取るか、エイムアシスト機能の充実などで対応するのか、慎重な検討が求められるところだ。

シリーズの今後への期待

スプラトゥーンシリーズは、任天堂にとって貴重な新規IPとして確固たる地位を築いた。
初代「スプラトゥーン」発表から10年が経過した今でも、次回作を望む声は常に高く、ファンコミュニティの熱意は衰えることがない。

まとめ:逆境の任天堂から生まれた新しい世代の代表作

初代「スプラトゥーン」は、WiiUの販売不振という任天堂の苦境の中で生まれた作品だった。

E3 2014での発表時は控えめな反応だったものの、実際に発売されると革新的なゲームシステムが多くのプレイヤーを魅了し、「スプラトゥーン2」でのSwitch効果により社会現象となった。現在では世界累計3,000万本以上を売り上げる大ヒットシリーズとなっている。

過去作品は今でも十分に楽しめる完成度を誇っている。Nintendo Switch 2の登場と共に発表されるであろう「スプラトゥーン4」を待ちながら、初代から3作目までの作品で改めてこのシリーズの魅力を再発見してみてはいかがだろうか。

スプラトゥーンは、まさに逆境から生まれた任天堂の新しい世代の代表作として、今後も多くのプレイヤーに愛され続けていくことだろう。


参考資料: