キングダムハーツ新作アプリ開発中止の衝撃と背景にあるスクエニの戦略転換
スクウェア・エニックスは2025年5月14日、スマートフォン向け位置情報ゲーム『KINGDOM HEARTS Missing-Link(キングダム ハーツ ミッシングリンク)』の開発中止を公式発表しました。
約3年前に発表され、βテストまで実施された期待作の突然のキャンセルは、多くのファンに衝撃を与えています。
今期決算で好調な売れ行きを示した『ドラゴンクエストIII そして伝説へ… HD-2D Remake』の存在がある中で、なぜスクウェア・エニックスはこのように痛みを伴う決断を下したのでしょうか?その深層に迫ります。
キングダムハーツ新作アプリ開発中止の公式発表
スクウェア・エニックスが『KINGDOM HEARTS Missing-Link』の開発中止を決定した主な理由は、公式には「長期にわたってご満足いただけるサービスの提供が困難」とされています。
しかし、この言葉の奥には、同社が現在推し進めている「量から質への転換」、そしてそれを実現するための「選択と集中」というより広範な経営戦略が存在します。
開発体制最適化とリソースの集中
2024年3月期に約221億円という巨額の特別損失を計上したスクウェア・エニックスは、続く2025年から2027年までの3年間を「再起動の3年間」と位置づけ、中期経営計画を策定しました。
この計画の中核をなすのが、無駄を排除し、本当に注力すべき分野に経営資源を集中させる「選択と集中」の戦略です。中期経営計画では、デジタルエンタテインメント事業における開発パイプラインの精査とタイトルの選択と集中が重要な柱の一つとして挙げられています。
スクウェア・エニックス中期経営計画
好調なドラクエ3リメイクとユーザーフィードバック:背景にある複合的要因

スクウェア・エニックスの2025年3月期決算では、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ… HD-2D Remake』の販売が好調であり、業績を牽引する要因の一つとなりました。
主力IPのリメイク作品が確実な収益を生み出す中で、必ずしも収益性が不透明な新規モバイルゲームにリソースを割く必要はない、という判断が働いた可能性は十分に考えられます。
一方、『KINGDOM HEARTS Missing-Link』のクローズドβテストにおけるユーザーからのフィードバックは、必ずしも運営側の期待を満たすものではなかった可能性があります。
操作性、課金要素、技術的な安定性など、多くの改善点が指摘され、長期的なサービス品質への懸念が示されました。
近年、モバイルゲーム市場の競争が激化していることも見逃せません。
売上が低迷していると報じられている『エンバーストーリア』の状況も、スクエニのモバイルゲーム戦略の見直しを加速させていると考えられます。
スクエニのIP戦略とモバイルゲーム市場の現状:キングダムハーツ新作アプリ中止の戦略的意図
スクウェア・エニックスの桐生隆司社長は、過去の決算説明会などで「タイトルの多様性」と「マーケティング」の強化の必要性を強調しています。
『KINGDOM HEARTS Missing-Link』の開発中止は、同社が主力IPを中心とした大型タイトルへの注力と、モバイルゲーム市場におけるポートフォリオの最適化を図る戦略の一環と解釈できます。
また、2027年3月期の連結営業利益率15%という財務目標達成のため、開発段階からの収益性見極めも重要視されていると考えられます。
キングダムハーツシリーズへの影響は?

『KINGDOM HEARTS Missing-Link』の開発中止が発表された際、スクウェア・エニックスは以下のメッセージを公式サイトやSNSで公開しています。
- 『KINGDOM HEARTS』シリーズの展開は今後も続いてまいります。
- また、現在『KINGDOM HEARTS IV』を鋭意制作中ですので、続報をお待ちいただくと共に、引き続きご支援いただけますと幸いです。
『KINGDOM HEARTS IV』は、2022年4月のシリーズ20周年記念イベントで初めて発表さた、家庭用ゲーム機向けのタイトルです。
Unreal Engine 5を使用していることや、新しい舞台「クアッドラトゥム」などが公開されていますが、それ以降、公式な続報は限られています。
今回の『KINGDOM HEARTS Missing-Link』の開発中止の発表と同時に、『KINGDOM HEARTS IV』の開発状況についても改めて言及されたことは、ファンにとっては今後の情報公開への期待を高めるものと言えるでしょう。
スクウェア・エニックスが、大きな方針転換の渦中で今後どのようなタイトルを発売していくのか、引き続き注目していきましょう。