2025年のゲーム業界は、まさに「大転換点」と呼ぶにふさわしい1年でした。

例年であれば、数百億円規模の予算を投じた超大作(AAAタイトル)が賞を総なめにするのが常でしたが、今年の「ゲーム・オブ・ザ・イヤー(GOTY)」の主役は違いました。

『Expedition 33(エクスペディション33)』『Arc Raiders(アークレイダース)』といった、クリエイティビティと技術力を兼ね備えた「インディー魂を持つ中規模タイトル」が大躍進を遂げたのです。

この記事では、2025年のGOTYを振り返りつつ、なぜ今、ゲーム業界の流れが「大規模開発」から「中規模開発(AA)」へとシフトしているのか、その背景と未来予想図を解説します。


前提の共有:これまでの「AAA至上主義」の限界

なぜ今年のGOTYがこのような結果になったのか。本題に入る前に、近年のゲーム業界が抱えていた構造的な「課題」を整理します。

1. 開発費と開発期間の異常な高騰

近年のAAAタイトルは、グラフィックのリアルさを追求するあまり、開発に5年〜7年、費用は数十億〜数百億円かかるのが当たり前になっていました。

失敗が許されない巨大プロジェクトとなった結果、メーカー側は「確実に売れる過去のヒット作の続編」や「リスクを冒さない似たり寄ったりなゲーム性」を選ばざるを得なくなっていました。

2. プレイヤーの「大作疲れ」と「タイパ」重視

一方、プレイヤー側にも変化が起きています。

「マップは広大だが移動が長い」「クリアまで100時間以上かかる」といったボリューム偏重のゲームに対し、忙しい現代のゲーマーは「タイパ(タイムパフォーマンス)」の悪さを感じ始めています。

2025年は、この「開発側のリスク」と「プレイヤーの疲れ」が限界に達し、新しい答えが求められた年だったと言えます。


2025年GOTY総括と「中規模開発」の勝利

今年のGOTYの結果は、業界が「筋肉質な開発」へと舵を切ったことを明確に証明しました。評価されたポイントは「規模」ではなく「密度」と「作家性」です。

1. 『Expedition 33』と『Arc Raiders』が示した「選択と集中」

今年の象徴とも言えるこれらのタイトルには共通点があります。それは、「全てを網羅しようとせず、尖った一点を極限まで磨いた」という点です。

  • Expedition 33:ターン制コマンドバトルという古典的なシステムに、Unreal Engine 5による超美麗グラフィックと「リアルタイムアクション」を融合。
    あえて広大なオープンワールドを捨て、リニア(一本道)寄りな構成にすることで、濃密な体験とストーリーへの没入感を実現しました。「狭く、深く」作ることでAAA級の満足度を生み出した好例です。
  • Arc Raiders:基本プレイ無料のPvPvEシューターでありながら、物理演算や環境破壊表現にリソースを集中。
    「何でもできるメタバース」を目指すのではなく、「緊張感ある脱出サバイバル」というコア体験に特化しました。

これらは、AAA級の見た目を持ちながら、開発規模やゲームデザインをあえてコンパクトにまとめることで、高い完成度を維持することに成功しています。

2. 潮流を決定づけた「作家性」の復権:その他の受賞作

上記2作品以外にも、今年のラインナップはこの「中規模・高品質」のトレンドを色濃く反映しています。特に以下のタイトルは、AAAにはない「作家性(オリジナリティ)」で評価されました。

  • 『Hades II(ハデス2)』(Supergiant Games)
    「インディーの規模感で、AAAを超える熱狂を作る」ことを前作に続き証明しました。
    開発規模は数十人程度ですが、早期アクセスを通じてファンと共に磨き上げる開発スタイルは、リスクを恐れて秘密主義になりがちな大手スタジオへの強烈なアンチテーゼとなりました。
    「マップの広さ」ではなく「遊びの深さ」で勝負するタイトルの代表格です。
  • 『South of Midnight(サウス・オブ・ミッドナイト)』(Compulsion Games)
    ストップモーション・アニメーション風の独創的なビジュアルと、アメリカ南部という珍しい舞台設定が評価されました。「リアルなグラフィック」を追い求めるあまり没個性化するAAAタイトルが多い中、一目で「このゲームだ」とわかる強烈なアートスタイルを提示。技術力を「リアルさ」ではなく「独自の雰囲気作り」に全振りした点が、今年らしい評価ポイントです。
  • 『The Alters(ジ・オルターズ)』(11 bit studios)
    「自分自身の変異体(オルター)と協力してサバイバルする」という、大手では企画会議で通りにくいであろう尖ったコンセプトが刺さりました。
    派手なアクションよりも「倫理的な選択」や「自己との対話」という哲学的テーマを重視し、中規模開発ならではの実験精神が成功した事例です。

3. 今後のトレンド:AAAからAA(ダブルエー)へ

2025年の結果を受け、今後のゲーム開発は以下のように変化していくと予想されます。

  • 開発期間の短縮化: 5年〜7年かけて1本の大作を作るよりも、2〜3年で作れる中規模作品(AAクラス)を複数リリースする戦略へシフトします。
  • AI技術の活用: 少人数チームでも、生成AIなどを活用してAAA並みのアセット(素材)量を用意できるようになり、インディーと大手の境界線がさらに曖昧になります。
  • 「密度」の重視: 今後の評価基準は「マップの広さ(=プレイ時間の長さ)」ではなく、「体験の密度(=時間の質)」がメインになるでしょう。

つまり、「予算の大きさ=ゲームの面白さ」という図式が完全に崩壊したのが2025年なのです。


プレイヤーにとってのメリット

この「中規模化」の流れは、私たちゲーマーにとっても朗報です。

  • 価格と時間の適正化:1万円を超えるソフトではなく、5,000円〜7,000円前後の適正価格で遊べる良作が増える可能性があります。また、クリアまで30〜40時間程度で「濃い」体験ができるゲームが増えることで、社会人ゲーマーも最後まで楽しみやすくなります。
  • 多様なジャンルの復活:「売れる鉄板ジャンル」しか作れなかった大手メーカーが、実験的な尖ったジャンルに再び挑戦しやすくなります。
  • サブスクとの相性:Game Passなどのサブスクリプションサービスでは、短時間で満足できる中規模タイトルの方が継続率を高めるため、この傾向はさらに加速するでしょう。

2026年、特大AAA『GTA6』と中規模タイトルの共存へ

もちろん、これでAAAタイトルの時代が完全に終わるわけではありません。来る2026年には、世界中のゲーマーが待ち望んだ業界最大級のモンスタータイトル、『Grand Theft Auto VI(GTA6)』が控えています(再延期しなければ、ですが、、)。

圧倒的な物量と予算を投じたGTA6が再び世界を席巻することは間違いありません。
しかし、2025年に私たちが目撃した「中規模(AA)タイトルの躍進」という流れも、決して止まることはないでしょう。

むしろ、GTA6という「特大の巨人」が存在するからこそ、その対極にある「作家性を尖らせた中規模タイトル」の輝きや、カウンターカルチャーとしての価値がより一層際立つはずです。

AAAの最高峰が君臨する2026年に、クリエイティビティを武器にした中規模タイトルたちがどこまで食い込み、どこまで躍進していくのか。

「重厚長大のAAA」と「個性一点突破のAA」、この二つの流れが融合する来年のゲーム業界が、今から楽しみでなりません。


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